着信音が怖いあなたへ——神経と脳から考える「音ストレス」のしくみ
着信音が怖い、ドキッとする——これって普通?
電話の着信音やLINEの通知音に、思わず心臓が跳ね上がる。
それだけで汗ばんだり、息が浅くなったりしてしまう——。
そんな経験、ありませんか?
特に仕事の電話や学校関係の連絡など、「気を張る相手」からの通知音が、まるで“警報”のように感じてしまう。
他の人が気にしないような音なのに、なぜ自分だけ反応してしまうのか。
実は、こうした音への過敏な反応は、「神経系の働きすぎ」が関係しています。
音に過敏になる脳のしくみ:鍵を握る“扁桃体”
音に強く反応してしまう背景には、脳の中にある「扁桃体(へんとうたい)」という部位の働きがあります。
扁桃体は、感情、特に「恐怖」や「不安」に関係する情報を即座にキャッチする脳のセンサーのようなもの。
生命の危険に関わるような刺激(大きな音・怒鳴り声・突然の動きなど)に反応して、心と体を“戦闘モード”に切り替えます。
一度、着信音=不快・ストレス・怒られる・責められる…などの体験をしてしまうと、扁桃体はその音を「危険信号」として記憶します。
その結果、次に同じ音を聞いたときには、「また危ないことが起きるかも!」と自動でスイッチが入るようになるのです。
「危険だ」と記憶した神経系:過去の経験と音の結びつき
たとえば、こんな経験はありませんか?
- 上司からの着信で毎回叱責されていた
- 家族との不和の最中に、いつも決まった通知音が鳴っていた
- 体調が悪いときに、何度も仕事の連絡が来た
こうした体験が繰り返されると、脳と神経は「音」と「不快な体験」を結びつけて学習してしまいます。
これを「条件づけ」と言います。
それはまるで、レモンを見ただけで唾液が出るような“反射”のようなもの。
音そのものが怖いのではなく、その音にまつわる過去の感情や記憶が、体の反応を引き起こしているのです。
神経系から見る、“今”のあなたの反応
自律神経には、日中活動モードにする「交感神経」と、リラックスモードにする「副交感神経」があります。
着信音が怖いと感じてしまうとき、交感神経が一気に優位になります。
これにより心拍数が上がり、筋肉がこわばり、頭が真っ白になるなど、いわゆる“緊張モード”になります。
この反応は、意思の力では止められません。
なぜなら、あなたの神経系が「命の安全のために」自動で起こしているものだから。
つまり、あなたの中に「おかしい人」や「弱い人」がいるのではなく、神経系が過去の経験からあなたを守ろうとしている状態なのです。
着信音ストレスから回復する3つのアプローチ
着信音に反応してしまうあなたの神経系に、そっと優しい働きかけをしていくことで、少しずつ“安全”を取り戻すことができます。
① 神経系の調整:安心できる環境を意識してつくる
脳と神経は「安全」を感じることで初めてリラックスします。
- 深呼吸
- 自分の好きな音楽
- 香りや光など、五感からの穏やかな刺激
こうした“安心できる刺激”を意識して取り入れることで、過敏になった神経をやさしく整える土台ができます。
② 着信音を変えてみる
実践的で即効性のある方法です。
「今まで使っていた着信音」をやめ、まったく違う雰囲気の音に設定してみる。
それだけで、脳が過去の記憶とリンクしづらくなり、反応が軽くなる場合があります。
ポイントは、音の高さ・リズム・テンポなどがまったく異なるものにすること。
③ 脳に「もう大丈夫」と伝えるケア
体の感覚に意識を向けるワークや、神経調整のセッションなどを通して、「今ここは安全な場所」と脳に教えていくことができます。
また、過去の体験が大きなストレスとして残っている場合には、心理カウンセリングや神経系アプローチを組み合わせることで、反応そのものがやわらいでいくケースもあります。
「わたしはおかしくない」——音と心の距離を取り戻す
着信音に反応してしまう自分を責めたり、「なんでこんなことで…」と落ち込む必要はありません。
それは、あなたの神経系が過去の体験をちゃんと覚えていて、「もうあんな思いはさせない」と必死に守ってくれている証。
そして、それは少しずつ変えていけるものです。
自分の反応に気づくことから、ケアは始まっています。
音との付き合い方を、もう一度やさしく調整していきましょう。
