ドラムでセッションをする時に感じている事

こんにちは。副院長の伊藤です。

 私は趣味でドラムを20年近くやっていまして、長くドラムをやっているとバンドメンバーたちから「ビートは常に一定のリズムを刻んでくれ」と言われることがあります。私個人としてはこの言葉を言われるとストレスを感じる事が有ります。

 それは何故かと言うと音楽(アンサンブル)と言うのは人と人がセッションをする事で成立しますが、人と言うのは常に一定の状態ではなくて調子が良い時も有れば調子が悪い時も有ります。そういった時の感情や気分は体調もですが、演奏にも影響を与える事が有ると思っています。

 良い事が有ってノッている時はギターの音も走ったり躍動感が有ったりしますが、悲しい事があって気持ちが落ちている時は自分では気づかなくても少しもの悲しいような音を奏でる時が有ります。そういった感情が入り混じった演奏をしているにも関わらず、ドラムだけが常に淡々と同じリズムで演奏をするというのは私的には「人の音楽を聴いていないと一緒」だと考えています。

 ベースがよれていたり、ギターが走っている時にはそれに合わせるようドラムのビートを刻む事で調和や躍動感が生まれてより良い演奏が生まれると思っています。もしこれが、自分だけが俯瞰している様に常に一定のリズムを刻んでいるだけだと、ある意味では音楽としての表現が出来ていないのではとも思えます。

 私たちが普段聞いている音楽のベースになっている物は60年代や70年代の楽曲が大元になっている事が多いです。そういった音楽を聴きなれているとその音楽がDNAに刻み込まれるように馴染み深い物になっていきます。では、当時の音楽の演奏が正確では無かったのかと言うとそうでは無くて、現代とのレコーディング環境が大きく違っている事が要因の一つにあげられると思います。

 現代の音楽は別録りや音の調整が出来る程技術が発達していきましたが、60年代の時は別録りではなくメンバー全員が集まって一斉に演奏してそれを録音していました。当然録音された楽曲は、その時の状況によって音が走ったりよれたりしていきます。そして、その音楽を録音したレコードやテープと言うのも今のCDやデータと違い聞き続ける事で劣化していき、音が変わっていくことも有りました。そういった音の変化を聞いて育ってきているので、常に音が一定な楽曲を聞くと違和感を覚えたりする事が有ります。

 周りの音楽に合わせるという話でしたが、アメリカのロックバンドのTOTOというバンドをご存知でしょうか。TOTOは1970年代後半から活動しているバンドで、スタジオミュージシャンが集まって出来たバンドという事もあって、非常に演奏のレベルが高いバンドです。そのTOTOの代表作の一つとして「ロザーナ」という曲が有ります。この曲の一番の特徴はAメロとサビテンポが違うというのが大きな特徴として上げられています。BPMだと大体20くらい違うと聞いた事が有ります。

 そんな曲を演奏するバンドメンバーの一人がこういったと言われています。「俺たちにメトロノームは要らない。何故なら俺たちにはジェフ」がいると。当時のTOTOのメンバーにはジェフ・ボーカロというドラマーが居ました。彼が居るから自分たちのバンドはリズムが乱れる事が無く演奏することが出来るんだという事でしたが、実際に曲を聴くとジェフのドラムテクニックは非常にレベルが高いものでした。

 でもジェフ自身は自分の演奏の事をこう言っていました。「僕のリズムキープなんてクソなんだよ」と。何故ジェフ自身がこんな言葉を言ったのかは真意は分かりませんが、ドラムに一定のリズムを刻む事を求めるとなると確かにジェフは一定の演奏では無かったのかもしれませんが、他のバンドメンバーはそう感じていませんでした。

 それは、周りの音に合わせて自分のリズムを変えていたからなのでしょう。ギターやベースがよれたり、走ったりしたらそれに合わせて自分の演奏を変える。そういった側面も有ってジェフ自身はリズムキーピングなんてした事も無いと言っていますが、他のバンドメンバーにそれを感じさせずに気持ちよく演奏させると言うのは、それだけ周りの音楽を聴いていてそれに合わせる事が出来る技術を持っていたから出来たのでしょう。

 ジェフは早くして亡くなるのですが、その後に新メンバーが入って同じ曲を演奏するのですが、ちょっと違いを感じたりします。曲をアレンジしている訳では無いのですが、違く感じてしまう。音楽と言うのは人によって表現が変わるという事も有りますが、ジェフがそれだけ周りの音を聞いていたのかなとも感じました。

 そういった考えもあり、私としては常に一定のリズムでドラムの演奏をすると言うよりは周りの音を聞いて、それに合わせてリズムを変えていくと言うのが理想なのではと考えたりもします。皆さんも機会が有ったらTOTOの「ロザーナ」を聴いてみてください。

色々と理屈っぽく書きましたが本心は「俺のようにやらせてくれ!」と言った気持ちがないことも有りません……。

それでは、また次の機会にお会いしましょう。